【例】盗撮事件において実名拡散を恐れる加害者女性からのご相談
相談者【会社員 40代女性】
私は40代の女性です。
アパートに住んでいるのですが、別の部屋に住んでいる20代の男性の盗撮をしてしまいました。
男性とはアパートの外廊下ですれ違った際に挨拶を交わす程度であり、それ以上の関わりはありませんでした。
そもそも部屋もかなり離れているので、挨拶をする機会自体なかなかありません。
しかし、ある日買い物に出かけた帰りに、停留所のバスから降りてくる男性を見かけました。
一切声をかけませんでしたが、街中でこの男性を見かけたのは初めてのことだったので私は酷い興奮状態になってしまいました。
そして、ほとんど毎日同じ時間に外出するようにして、男性の姿を目にしなければ気が済まなくなりました。
ですが、ある日バスを降りた男性と目が合ってしまい、男性のほうからこちらに歩み寄り「こんにちは。同じアパートの方ですよね?」と気さくに話しかけられました。
「近所づきあい」というものがそもそも存在しない時代だと思っていましたが、このような人もいるのだなと嬉しくなってしまいました。
ただ、男性と一緒に帰り道を歩くほどの勇気はなかったので、「じゃあ、私はこれから買い物ですので」と言ってその場をあとにしました。
今、冷静に振り返ってみればこの時点で気持ち悪いです。
「少し気に掛けていた男性に話しかけてもらえた」だけで満足しておくべきでした。
それからの私は絶対に男性に見つからないようにして、機会をうかがうことにしました。
そして、ある日ついに男性が帰り道に公園に寄り、ほぼ誰も使っていないトイレに入りました。
私はトイレに侵入し、男性が小用を足しているところを背後からスマートフォンで撮影しました。
しかし、その際にスマートフォンから音が出て男性に気付かれたのではないかと思いました。
ですが、その場では男性の反応が全くなかったので、私はその場から足早に立ち去りました。
率直に言って、そのときは「バレなかったのだろう」と安心してしまいました。
しかし、その2日後になってアパートの私の部屋のチャイムが鳴りました。
内心非常に動揺してドアを開けると、彼がいたので観念しました。
「もし違ったら本当に申し訳ないのですが、先日僕が公園のトイレにいるところを撮影しませんでしたか?
スマートフォンのような音がしましたし、走って逃げるあなたの姿を目にしたような気がするんです」
と言われました。
このとき私は、「証拠(盗撮映像)を消したら罪が重くなるのかもしれない」と考え、写真データは削除していませんでした。
思えば、最初から「自分の犯行はいずれ明るみに出る」と内心では悟っていたのだと思います。
そこで、私は正直に罪を認めました。
魔が差して盗撮をしてしまいましたと語りました。
ただ、必要のないことだと思ったので、毎日にようにバスから降りる姿を見ていたことは伝えませんでした。
男性が「僕もどうしていいのかよく分かりませんが、とりあえず一緒に交番に行ってもらえますか?」と言ってきたので、それに従いました。
交番に行き、最初私は気が動転して「男性の後姿を撮影しました」と自分に都合の良いことを言ってしまいました
ですが、お巡りさんに「それは本当ですか?」と言われたので、恐る恐る「日頃から気になっていた男性を見かけて、気持ちが抑えられなくなり盗撮をしてしまいました」と伝えました。
当日の持ち物だったスマートフォンは警察に押収されており、
現在は在宅で捜査中となっています。
虫のいい話ではありますが、男性との示談を希望しております。
ただし、私の実名を把握されてしまうと、男性がツイッターなどで広めてしまうのではないかと感じています。男性に失礼な考え方ですが、本当にそれだけは避けたいのです。
(交番において男性は、お巡りさんに話しかけられたとき以外はうつむいていましたので、私の名前を知る機会はなかったはずです)
なんとか名前を知らせずに示談をする方法はないものだろうかと弁護士の先生に相談させていただきました。
在宅捜査であり自由に動くことができる状態でしたので、弁護士さんに相談し、警察と示談交渉の打診をしていただきました。
そして、そのまま男性と示談交渉をすることとなりました。
どのようにすれば名前を知らせずに済むのかと思っていましたが、
方法は単純で「示談書案に氏名を書かない」という手段を取ることになりました。
このような加害者にとって都合の良いやり方が通るのかどうか不安でしたが
弁護士さんが工夫して下さったおかげで無事名前を知られることなく、示談が成立しました。
また、「示談をするにあたって、私が男性の名前を知ることになったら申し訳ない」とも思っていました。
ですが、裁判に発展しない場合は、基本的に被害者の方の名前を加害者に教えることはないのですね。
考えてみれば当然のことかもしれませんが、これで少しでも男性の恐怖心が和らいだのかと思うと、ありがたい仕組みだと感じます。
そして、起訴されることはありませんでした。
これが初犯だったからではないかと思います。
また、私が写真データを削除しなかった事も正しい判断だったと弁護士さんが言っていました。
実は「盗撮写真をすぐに消すことこそが男性への礼儀なのでは」とも感じていました。
ただ、仮に私がそのように主張したとしても認められるはずがありませんよね。
「証拠を消そうとした」と思われても仕方がないと感じます。
ちなみに、現代の技術力をもってすれば、スマートフォンのデータ程度は容易に復元できるそうですが、私はこの事を知りませんでした。
現在私はすでに引っ越しをしており、当然男性への接点は一切持っていませんし、連絡を取ったり顔を合わせようとしたりもしていません。
盗撮のような行為に及ぼうという気持ちは一切ありませんが、カウンセリングに通いつつ二度と自分が蛮行をしないように努めています。
また、さすがに携帯電話がない生活をすることはできませんが、カメラ機能がないものを購入しました。
「犯罪捜査規範」というものがありまして、これに従って被害者が加害者の名前と住所を把握できるケースがあります。
ですが、本件の依頼者様のように、近年は「相手方に個人情報をSNS等に投稿されてしまうこと」を危惧する方が少なくありません。
そして状況次第ではありますが、氏名を明かさずに示談することは可能です。
まずは、「これ以降は弁護士を窓口にします」と相手に伝える事が重要です。
「犯罪捜査規範」に沿って考えるのであれば、「名前と住所を知らせることが、被害者を救うことに繋がる」のであれば、名前を隠しておくことはできません。
ですが、弁護士を窓口にする事で、「被害者を救うことに繋がる」とは言えなくなるのです。
また、「名前と住所を知らせることが、関係者の名誉や権利を侵すことに繋がる」と警察に伝えることも大事です。
本件に関しても、念のため警察にそのように連絡しました。
ちなみに、被害者側が「加害者に名前を知られることを恐れて、示談を躊躇する」という場合もあります。そのため、ケースによっては「被害者の名前は裁判になるまで必要ない」と被害者に伝えることも重要であると感じています。
※時間外、休日の相談も可能ですので、お気軽にご相談ください。
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